みなさんは、UDフォントをご存知でしょうか?
わたしたちは多くを視覚情報に頼って生活しています。特に文字は、物事を正確に伝えるツールとして、とても重要な役割を担っています。その中でも「UDフォント」と呼ばれる文字が、駅や空港、病院などの公共施設で多く使用されています。さらに、UDフォントの使用はは教育現場にも広がっています。
それはなぜでしょう? また、実際にUDフォントとはどんなものなのでしょう? さっそく見ていきましょう。
UDフォントはユニバーサルデザイン!
UDフォントの「UD」とは、ユニバーサルデザイン(=Universal Design、UD)を指します。このユニバーサルデザインは、文化や言語、国籍、年齢、性別、能力などの個人の違いにかかわらず、誰もが使いやすく利用できるようにすることを目標としています。
つまり、UDフォントとは、ユニバーサルデザインの考えに基づいた、みんなに分かりやすいよう配慮されたやさしい文字なのです。
教育に広がるUDフォント
では、なぜ教育現場にもUDフォントが広がっているのでしょう?
ディスレクシアやロービジョンの子に配慮したフォント
文部科学省が実施した調査によると、約20人に1人の子どもがディスレクシア(読み書き障害)であるということがわかっています。またその他に、ロービジョン(弱視)などの視覚障害によって、見えにくさを感じている子もいます。
ディスレクシアやロービジョンなどの視覚障害のある子にとって、明朝体のように線の強弱があって先がとがっていたり、ゴシック体のように墨だまりのような「うろこ」と呼ばれる部分がある字形は、「読みにくい」「わからない」と感じやすいと言われています。こうした子どもたちを配慮し作られたのがUDフォントです。硬筆やサインペンを意識した線による運筆を重視したフォントの形になっています。
こちらが、株式会社モリサワ社(元子会社であったタイプパンク社)が開発した「UDデジタル教科書体」と他のフォントとの比較です。
小学校の国語科の授業では、ひらがなやカタカナ、漢字を「見た通りに真似して書く」ように指導しています。ですので、どのようなフォントの教材を使うかは重要です。(ちなみに「UDデジタル教科書体」はWindows10以降に搭載されています)
では、英語の授業でのアルファベットの読み書き指導ではどうでしょう?
英語授業にも最適なフォント
小学校では、2020年より英語が教科化、義務化され「読む」「書く」の指導が始まりました。英語の読み書きを指導する難しさに、頭を抱える先生も多いようです。英語も日本語と同様に「見た通りに真似して書く」指導を徹底することがポイントです。ですが、アルファベットのフォントの中には学習指導要領に示されたものと違う形に見えるものが多くあるので、学習者が混乱しないよう注意が必要です。
その問題を解決するため、アルファベット(欧文書体)のUDフォントも多く開発されています。ここでも「UDデジタル教科書体」と他のフォントとを比較してみました。
やはり「うろこ」のあるものや、習う字形と違うフォントは、ディスレクシアやロービジョンなどの視覚障害がある子に混乱を与えやすいといえます。このような非UDフォントを使った教材を使って授業をすると、子どもによっては違う文字として認識をしてしまったり、見た通りに書いたのに周りから「違う」と指摘されてしまったりし、文字への苦手意識を植え付けかねません。
また、Comic Sans MS体の「J」は、上部に棒がついています。また「Y」は小文字と同じ形の斜めの文字です。もし、ある子が真似してこの通り書いたとしても、間違いであるとは言えません。しかし、学習指導要領に書かれている文字の字形とは異なるので、ワークテストなどにこのように書いてしまうと、バツにしてしまう先生が多いようです。
その正誤については、まだ議論の余地がありそうですが、どちらにせよ混乱を与えていることに間違いはありません。
株式会社モリサワ社では、さらに読みやすい・書きやすいUDフォントとして「UDデジタル教科書体 欧文シリーズ」をリリースしています(要ライセンスまたは購入)。手の動きや筆の動きにそった字の形状になっており、左右非対称のため、より混乱を防げます。
字游工房社の「JKHandwritingファミリー」のフォントも、UDフォントの1つです。2018年発行の英語教科書『We can!』に使用されていたので、小学校で英語を教える先生には馴染みが深いフォントです。4線付き文字のフォントも話題となりました。(こちらもライセンス取得もしくは購入が必要なフォントファミリーです)
「JKHandwritingファミリー」の開発には、英語教育ユニバーサルデザイン研究学会(AUDELL)と東京書籍株式会社が協力しています。「a」や「o」などは運筆に合わせた字形にし、「K」や「R」はロービジョンなどの視覚障害があるの子が書きまちがいをしないように繋がった字形にしているのだそうです。
また、4線に注目すると、中央部分の幅が少しだけ広い仕様になっています。これは「E」の横線も、「k」の線が交わるポイントもちょうどよく捉えられるように配慮されているのです。
UDフォントを意識した教材選びを
以上、教育現場でも広がるUDフォントについて紹介しました。
UDフォントはディスレクシアやロービジョンなどの視覚障害がある子に配慮されたフォントであり、また同時に、文字を習うすべての子にとって最適なフォントであるということがお分かりいただけたのではないでしょうか。UDフォントは見やすく、わかりやすく、真似しやすいので、初めて文字を学ぶ子にとっても優しいフォントです。教材を選んだり作成したりする際は、ぜひフォントにも意識を向けてみましょう。
なんとなくフォントを選んでいませんか? 飾り文字ばかり使っていませんか? ドキッとした方は、今一度、いつも使っている教材の見直しを図ってみてくださいね。